「何度出てきても無駄。とっちめてやるんだから」
「俺らのMP分も考えてくれー?」
「早期決着が、結果節約になるのですが」
「とにかく、この滝もあとそんなに深いわけではなさそうだ。先に進もう。宝箱も見える」
そう言って、ライアンが先を指差した。
アリーナの髪の毛はしっとりと濡れ、水末をも吸い込み、小さな水滴がぽた、ぽた、と落ちていく。クリフトはその髪を見て、ここから出たら乾いたタオルで彼女の頭をよく拭いて、乾かさねばなるまい、と思う一方、複雑な思いでいた。アリーナの髪から滴る水滴が、まるで虹を讃えているかのように見える。そしてその向こうには、無数の滝がある。
純度の高い宝石の中から見える世界に、ただ夢見るように浸っていたい程度には、彼女が気になる。もちろん、その気持ちを出すべきは、いまでは無かろうが、彼は気を抜けば彼女のことを、一日中でも考えてしまいかねないのだ。
いまは、そんなときではないのに。
アルディが最奥にあった大きな宝箱を開けると、そこには刃の先から鍔の先まで同じ金属で出来ている、一振りの剣が入っていた。
「……これか。クリフトのお義父さんが言っていた強い剣ってのは」
「綺麗……。この刃先に吸い込まれそう」
「見た目は話に反して重そうだが、どうなんだ。クリフト、持ってみろ」
ライアンに促されたクリフトが、宝箱から剣をそっと取り出すと、果たしてそれは剣の割に、羽のように軽かった。
「持ってみてください、ライアンさん」
「うん? よし。……なんだこの軽さは。いくら斬れようが、扱えなくはないが、俺には不安でならないぞ。アルディ、持ってみろ」
「そんなに軽いのか? うぉ、なんじゃこれ。持った気にならない」
「ねえ、私にも持たせて?」
「使えないだろ、アリーナは」
「持つだけ」
アリーナがアルディから受け取ると、水末があちこちに付き出したその剣は、とても軽いものだと思い知った。アリーナがいくら剣の素人でも分かる。これは重さに任せて叩き斬るものではなく、高い技術と鍛錬によってのみ、使いこなすことが出来る、扱いの難しい剣。
冷たく輝くその剣を、アリーナは両の手に持ち直し、クリフトに差し出した。
「これ……。私はクリフトに使って欲しいの。アルディとライアンの意見を聞きたいわ」
「特に異議なし。昔持ってた剣、折っちまったしな」
「一国の王女に頼まれては、断ることなど出来まい。難しい剣だが、大丈夫か?」
アリーナが小さな声で、神々のご加護がありますように、と呟いたあとに、クリフトは剣を受け取り、くるくると自分の手足のように振って見せた。
「……ほう、剣を使うところを初めて見たからとはいえ、これは恐れ入った。剣だけでも、うちの師団長クラスじゃないか」
「器用だから棒とか槍とか使えるだけで、元々クリフトは剣の方が強いんだ。ライアンは知らなかっただろうしな」
「実際、クリフトはサントハイムの騎士副団長なんだよ。騎士団長はクリフトのお義父さまだから、実質騎士団長みたいなものなんだけどね」
えっへん、とアリーナは胸を張った。
「ほう……。これは改めて夜稽古を申し出たい。クリフト、受けてくれるかな」
「はい、ライアンさんになら、我がサントハイムの事情もお伝え出来るでしょうし、大歓迎です」
クリフトは、すらっと音を立てながら剣を鞘に戻した。
「出ようぜ、いくらここが綺麗でも風邪ひいちまう」
アルディがリレミトを唱えたのは、その直後だった。