pickup!

おかしなこともあるものだ。
誰の思念で、何の因果があるのかは分からないが、毎夜毎夜変な夢を見させられる宿に、また寄ってしまった。

今度は、女が泣いている。
いや、男たちに泣けと言われ、天女のような薄衣を破られ、一方的に殴られ、蹴られ、血を流し、悲しみと恐怖でいっぱいの顔で、こちらを見てくるのだ。自分には、何も出来ない。そうするうち、黒い衣に身を纏った男がやってきて、男たちを刃で惨殺し、返り血を浴びた顔も拭わずに彼女に近寄る。

女は……死んでしまう。
黒い衣に包まれた男の腕に、抱かれながら。
男は、絶叫する。
許さない、と。

彼女が……一体何をしたというのだ。
流す涙が宝石であること以外には、特に取り立ててなにもない、ただの女であることが出来たはずなのに。

怨嗟は怨嗟を産む。
呪いだ。
男の顔は、狂気に満ちていたーーー。

「困っちゃうんですよね」

翌朝、朝食を持ってきた宿の主人は、盛大に頭を掻いた。

「お客さんたちからは、ノイローゼになっちまうと言われましてね。見ましたか、男の最後の顔。あれは、修羅ですよ。もう、後戻りなんか出来やしない。……そうだ、あなた、徳のある神官さまでいらっしゃるでしょう? なんとかしてくださいよ。このままじゃ、商売あがったりなんですよ」

朝から葬式を五軒ばかり梯子してきたような仏頂面をしていたクリフトは、主人の言葉に対して、ああ、と顔を上げた。

「私は……国の政を主とする、いわゆる城仕えの神官です。しかし、仰られていることは理解出来ます。この街の教会に行き、正夢であろうとなかろうと、夢の中の彼女に安らぎがあらんことをと、神に祈ることくらいしか私は出来ませんが、それでも良ければ……」
「お願いしますよ、宿がこうだと、武器屋も道具屋も商売にならないのです。ああ、どんな因果があって、こんなちっぽけな宿に……」

クリフトは頷くと、また元の仏頂面に戻ってしまった。見渡す限り、明るい顔をしている人はいない。どこか思い詰めたような、重たい空気が流れている。自分たちは、彼女に見覚えがあった。話したこともある。ピサロを止めてくれと言っていた。もとより、ピサロという男は、人間に対して怨みの感情を持っていたのだろう。

重く暗い空気の中、ひとり、窓の外の街路樹に止まる鳥を眺めながら、煙草を吸う男がいた。アルディである。

「……ま、たかだか夢だ。そんなことより、飯食おうぜ。せっかく持ってきてくれたのに、冷めちまう」

アルディは、吟遊詩人のようなふざけた格好をしたピサロが村にやってきて、そうしてその次の日に村を焼かれたと、クリフトに語ったことがある。あの男だ、と一瞬で思い出したらしい。

かつかつ、と音を立てながら朝食をいつも通り食べているアルディの心の底は知れない。そのアルディは、トルネコが調整の為、武器屋に預けた武具を取りに行くのを手伝うらしい。彼は、いつも通りの顔だった。

悪夢を引きずった雰囲気は嫌だと、アリーナは宿の裏でいつものストレッチと、型の練習をすると言って飛び出して行き、マーニャとミネアは買い出しに出かけ、ライアンは昔の仲間に会いに行き、ブライは外交の為の書類を書くと部屋に戻った。そして、クリフトは教会に出かけ、宿の事情をよく知っている神父と共に、神々に祈った。

せめて、ロザリーの魂が真なる神々の元で安らぎを得られるように。そして、人間誰しもが生まれ持ってしまう罪に対して、許しを得られるように。

更新お知らせ用ツイッターはこちら

おすすめの記事