pickup!

ミントスでトルネコがクリフトの試算した資料を基に、旅道具を調達するのに数日かかっていた頃。マーニャとミネアは新しく入ってきた新入りの女の子、サントハイムの王女アリーナに対して、せっかくだから仲良くなろうとアプローチをかけていた。

元々ジプシーであるマーニャとミネアにとって、王女は雲の上の存在。いくら得意の格闘技でエンドールの武術大会を優勝しようが、なかなかお近づきになれない存在だと、二人は半分おっかなびっくり、そして半分は好奇心で一杯だった。

アリーナはカフェでアイスティーを、クリフトと飲んでいたが、マーニャとミネアが手を振りながら近づいてくるのをクリフトが見つけると、気を利かせたクリフトは立ち上がり、所用を済ませますと去って行き、残されたのはアリーナひとりとなった。

「ここ、いい?」

マーニャがクリフトの座っていた席を指差すと、アリーナは一瞬きょとんとした顔を見せたが、すぐに小花がほどけるような笑顔を見せ、どうぞ、お座りくださいと言った。

「じゃ、私も」

と言い、ミネアもマーニャの隣に腰をかけた。

「お姫さま、なんだよね?」
「ええ、いまは国があんなことになってしまって、王女といっても形だけだけれど…」
「とっても可愛い女の子じゃない」

ええっ、そ、そんなこと……。
私は乱暴だし、粗雑だし…。趣味なんか武道の鍛錬だし……とアリーナは困惑し始めた。

「誰にでも乱暴を振るわないでしょ?」
「ええ。武人たるもの、そんなことは」
「そんなことより気になるー、昨日目が覚めた陰のあるイケメンのお坊さんは、恋人?」
「ちっ、ちがい…ます! 彼は、ただの幼なじみでっ…。彼も神官だから、そんなに簡単に恋愛ごとなんかに興味、持てないしっ」
「あー、お顔が真っ赤になったー。あやしー」
「では、ちょっとだけ占ってみましょうか」

とんとん、とミネアがタロットカードを取り出して「気になることはなにかしら?」とアリーナに問うた。

「気になるって……そんな」
「ミネアが気まぐれで。しかもタダで占うことって、滅多にないのよー。乗っかっちゃえ乗っかっちゃえ。なにが気になる? 彼の気持ち? それとも今後の二人の行く末かな?」
「…………じゃ、クリフトの……きもち」

消え入りそうな声でアリーナが呟くのを聞いて、マーニャがにんまりとして、かわいいーと言った。

「そ、そういう意味じゃなくて!」
「あー、はいはい。嫌な思いしながらついてきて、挙げ句の果てに病気になったら嫌だものね。気になっちゃうの、わかるー」
「う、うん…」

ミネアは束にしたカードをアリーナの前に並べて、どれか一枚引いて、私に渡して? と言い、アリーナもその通りにした。

「では、占います。クリフトさんの気持ち」

しゅっ、しゅっ、と小気味よくカードが並べられていく様を見て、アリーナは「ほわー」と感嘆の声を出した。

「いまは回復したけれど、病気をしたことについて、みんなに申し訳なく感じているみたい。気になる人はと……アリーナは、聞きたい?」
「……う、うん…」
「つい、本当に最近、気になる人が出来たみたい。その人は昔からの知り合い。……待って、その人はクリフトさんにとって高嶺の花。到底叶わぬ想い、と出ているわ」

マーニャが、うにゃーん? と首を傾げた。

「あんなイケメン太郎で、真面目で頭が良くて、気が利いて。爵位持ちのお金持ちなのにー?」
「少なくとも、クリフトさんにとっては高嶺の花みたいね」
「んー、高嶺の花、高嶺の花…。あ、分かった。案外アリーナだったりして」
「待って、私、高嶺の花なんかじゃないから」
「王女さまがそれ言う?」
「難しいことなのですが……」

サントハイムは一見王政政治というように見えているものの、実態は神性政治で、クリフトの父であるバーンスタイン公。大神官が一番の実権を握っている。他にもサントハイム王室騎士団が実質は神殿騎士団であったりと、アリーナや王はお飾りの部分があり、身動きが取れないことも多々あるのだ、とアリーナは説明した。

「ほーん……。難しい部分があるのね」
「大昔は王や王子の結婚相手も、大神官が決めたりしたのです。私がどうして家出同然の旅が出来たのかというと、バーンスタイン公のご子息であるクリフトが、ついてきてくれたからだと思うし……。もちろん執りなしなんかもしてくれたんだと…」
「そんな権威はなくとも、権力のあるクリフトさんが高嶺の花、というのはなんだか不思議ね」
「クリフト、昔から女性苦手だったから……。モテてしまうし、それで公務の邪魔になったこともあったし、それでも優しいから、困った人を見かけると放っておけないのです。高嶺の花というのは、誰に対しても思いそう」

そうなのですかとミネアはまた、とんとん、とカードを片付け始め、マーニャはむーん、と肘をついた。

「ねえ、アリーナ王女さま?」
「は、はいっ」
「私たち、これから仲間なのよ? 一緒に戦って、一緒に水浴びしたり、痛い目あったり、喜んだりするのよ。それが、そんなかしこまった話し方では、私たちが参っちゃうわ」
「それには姉さんの意見に賛成」

カードを片付け終わったミネアが、アリーナに言った。

「まず私たち。ここで、おともだち、になりましょうよ。一緒にクレープ食べましょう?」
「わ、私、ずっと稽古ばかりしていたから女性のおともだちっていなくて……」
「一緒にクレープ食べたら友達なのよ」
「えっ、そうなの」
「私、サラダクレープ食べるゥ」
「私、カスタードとバナナにする。アリーナは?」
「イチゴとチョコ。生クリーム…たくさん」
「そうでなくっちゃ! 店員さーん!」

持ち帰り用に包んでもらったクレープを、三人でもぐもぐと食べながら、港町を散歩していると、クリフトがアルディに釣りを習っているところに出会した。

「あら、太公望」
「よくご存知ですね、遠い昔のファンタジー物語の主人公じゃないですか」
「なにか釣れる?」
「このへんじゃ、マナガツオが釣れる。後は……まあ、雑魚かな」
「クリフト、クレープおいしい! た、食べる?」
「お気持ちは嬉しいのですが、手がこの通り汚れているので…」
「食べさせてあげるって言ってるのよ、彼女」
「ええ? ええっと……」

じっと見つめてくるアリーナと、他三人の視線に負けたクリフトは、素直に口を開けた。

「……あまっ、甘いですね」
「はい、クリフトも私たちとお友達確定ー」
「は、はあ…。どういうことです?」
「女の子はね、一緒にクレープ食べたらお友達なのよ」
「……俺は? ねえ、必死に魚捌いてる俺は?」
「アルディは、元々からだし……」

ミネアのクレープももらえなかったアルディは、くそう、後で食ってやるからクリフトも付いてこいよ、一人で入れねーから! と言い、またカツカツと魚を捌き出した。

「それ、今日のごはんにしてもらうの?」
「そうだよ。今度はこれを一度揚げて、カレーに入れてもらう。船乗ったらなかなか揚げ物食えないし、そうそう。クリフトは結構筋いいぞ。国が平和になったら、またお父さんに頼んで釣りに連れてってもらえよ、アリーナも」
「う、うん…」

クリフトがかじった甘い部分を、もじもじとしながら、真っ赤な顔で、はむ……とアリーナがかじったのを見て、マーニャはうんうんと頷いた。

「アリーナったら、本当に可愛いんだから」
「そうね、私も心からそう思うわ」
「もう、からかわないで!」
「そうそう、そんな感じそんな感じよ」
「いい感じ」

それを眺めていたアルディが、剣呑な口調で言った。

「なんかよくわからんが、女同士の親交が深まったようでよかったな、クリフト」
「……あ、釣り針が私の襟にかかった」
「いまならいける、釣り上げるのよアリーナ!」
「なんで私が! もー、やめてー」

はむはむはむ、とクレープを食べ終わったアリーナがクリフトの襟にかかった釣り針を外しながら、変な人に釣り上げられたら、嫌なんだから。と言っていて、全くわけのわからないと言わんがばかりのクリフトを横目に、周りの三人は、うんうん、と頷くばかりだった。

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