pickup!

「……どうだ、クリフト」

囁き声のアルディに対して、クリフトはひらりと天井の隠し戸から飛び降り、後ろを振り返りながら吐き捨てた。

「バルザックは、やはりひとりだ」

マーニャは不愉快な顔も隠さず、爪を噛んだ。

「一人で余裕ってことか……。あの野郎」
「やっぱ、化け物だったか?」
「人では無いな、あれは。一度死んだ死人」
「死人、か」
「見れば分かる。アレには未来も救いもない」

クリフトは真剣な顔で、黒い革手袋をキュッと音がするまで嵌め直し、まっすぐと迷わぬ瞳で闇を睨みながら、すらりと大剣を抜いた。それを見たマーニャは鉄の扇を開き、またパチンと閉じた。静かに目を閉じたままのミネアは、腰に下げたポーチから銀色に鈍く光るタロットを取り出し、またアルディは、舌で上唇を湿らし、破邪の剣を腰に下げた鞘から、ずるりと引き抜き、呟いた。

「面白くねー」

俺のダチが少し前まで過ごしていた城が無人になり、そこに、これまた自分の旅の共連れの親の仇が人間をやめ、嬉々として玉座に座ったものの、サントハイム側には特に政治的、人的要求もしてこない。

ーーただ、ふんぞりかえっているだけ。

不気味なことこの上なく、これが面白いわけがなかろうと、アルディは心の中で舌打ちをした。

「確かに、罠かもしれない」

アルディの心の声が聞こえるのか、クリフトが視線を闇の中に向けたまま、囁いた。

「どう見ても、この状況はおかしい。まるで人をはけさせ、無人になった城に実験動物を用意したから、殺してくれと言わんがばかりだ。だが、私は一から万事が気に食わない。誰の指図か差し金かは分からないが、我らがサントハイム城で、そのような所業は、決して許されるものではない」
「実験動物だろうがかまやしない。血反吐吐かせてでも、父さんの悔しさを思い出させてやる」
「すぐに死んでもらっては困るもの、人じゃない方が都合がいいわ」

ミネアがゆっくりと目を開けたのを確かめてから、アルディは言った。

「クリフト、前方から中盤の回復を頼む。ミネアは中盤から後方。マーニャは呪文がブレて威力を落とすくらいなら、俺がカバーするから固定砲台でいい。このメンツで長期決戦は、ジリ貧になるだけだから、初っ端から飛ばす。……いくぞ」

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