pickup!

バルザック戦で折ってしまってから、ずっと棒や槍を使っていたクリフトの剣が、ようやく決まった。

ーーはぐれメタルの剣。

出処は分からないが、美しい滝の中で長い眠りについていたその剣を手に入れたからには、クリフトが新しい剣として使う他無いと、仲間たち全員賛成の元で決まった。

ついては、クリフトの義父と王女アリーナの祝福を受けるべく、一行はサランの街に帰ってきたのだ。

久しぶりに戻った王女と若い神官には、熱い注目が集まり、明るい情報から小さなゴシップネタまで欲する新聞記者や、全世界の映画館を始め、裕福層の間で好んで観られるニュース映画の記者たちの、格好の的になった。

……だけではなかった。
ここは、サランの街にある老舗のカフェ。
クリフトがよく利用する、という噂になっている飲食店のひとつである。

「クリフト・バーンスタイン様非公認ファンクラブ、157回目の定例会を行います」
「きゃあああああ」
「この時を楽しみにしておりました…!」

実はクリフトのファンクラブは一つではない。
一番大きなファンクラブの会員は、貴族や商人層の若い女性を中心に数百人の会員を有し、そこから方向性の違いや、収入、身分の違いなどから分派、そのまた分派が出来、いまでは十の数では数えきれなくなっていた。

アリーナも名前と身分を偽り、どこかのファンクラブに所属している、という噂も、そうであって欲しいという願いとともに、まことしやかに流れている始末である。

「クリフトさまがまた旅立たれるまで、あと5日という情報を、我々は入手しました。前回の会報にも掲載していた、サントハイム城復興基金へのご協力を、本日は強くお願いします。クリフト様ご一行が成された偉業を、ただの灯火にしてはなりません。我々の力で持続させていきましょう」

司会の女性が力強く言うと、周りの女性からパチパチと拍手が巻き起こった。

「クリフト様が、今回もご無事でご帰還なされたことを、まずは神々に感謝しようではありませんか。皆さま、まずは祈りましょう」

女性たちが一斉に祈り、辺りは静寂に囲まれた。その後は、皆クリフトの話題で持ちきりになる。

「わたくし、バーンスタイン邸からクリフト様が出てこられたのを、偶然お見かけしましたわ」
「あら、出待ちじゃありませんこと? それは会の掟で強く禁止されているはずです」
「本当に偶然ですの、同じ年頃の殿方と一緒でしたわ」

本当に偶然だと主張し立ち上がった女性に、会長はそっと着席を促した。

「彼の名前は確か、アルディ。アルディ・レウァールですわね。クリフト様の大切なお仲間であり、ご友人らしいですが、彼もまた端麗なお姿とお顔立ち……」
「二人並んでいると、まるで舞台俳優のようですわ」
「クリフト様を俳優などと一緒にしては」
「そうよ。あの涼やかで伏し目がちな瞳、理知的で端正でありながら、ほんの少しだけ陰りのあるお顔立ち、スラッとした立ち姿に、冷たい鈴のような凛とした声……。そうありながらも、サントハイムのことを第一に考える政治思想と、なんといってもあの明晰な頭脳と、呪文と剣の腕!」

女性たちは一堂に、ほぅっ……とため息をつき、その後、めいめいに声を挙げ始めた。

「一度でいいから、愛を囁かれたい…!」
「愛など囁かれなくとも、あのお声で名前を呼んでいただけるだけでも…!」
「あの視線に貫かれて、眠れぬ夜を迎えたいわ」
「私、バーンスタイン家の燭台になりたい…!」
「わたくしも!」

クリフトの話で盛り上がる女性たちは、気付いていなかった。老舗のカフェの古い古い扉が扉につけられた、鈴の重たい音がするのと共に開くまでは。

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