pickup!

そして、今日。
無人の城に居ついたバルザックを、最終的にはクリフトが殺す。

年老いた公爵は、こう考える。
ここで一番重要なのは、奪われた城は自国の者で取り返す。出来れば王族が望ましいが、強さが未知数の魔物に対し、サントハイムに一人しかいない王族を、戦闘に割くのはあまりに危険。ゆえに、王族に近い身分であるクリフトが望ましい。

クリフトが致命傷となる一撃を宝剣で与えることで、毎日項垂れ、神々に希望を祈るばかりだったサントハイムの国民は、再び希望と自信と誇りを自ら持ち、魔物の侵略に対しても再び強く立ち上がるようになるだろう。

知らん振りを決め込んでいた他の国々にも、冒険者や吟遊詩人、そしてニュース映画などにより知れ渡り、結果的に人類の自衛心が高まり、なによりも貴族階級が下からの突き上げで、魔物に対する意識を、嫌でも高めなければならない結果となり、武器や防具は行き渡り、魔法の研究も進み、各国の軍も魔族に目を向けざるを得なくなる。

……それはあくまでも、希望的観測に過ぎないが、小さな機会にもしがみつき、賭けるしかない。かの麗しい姉妹には申し訳ないが、ただの仇討ちでは、酒場のお涙頂戴な小話で終わってしまうし、神が遣わせた地上の天使がトドメを刺すと、今度は人々の心はそれこそ「天使まかせ」の他人事になってしまう。

ゆえに、クリフトなのだ。
どんなに厳しい戦いで、難しくとも、トドメを刺すのはクリフトでなければ、ならない。これは、人類が魔族に最後に勝つための、初めの必須条件なのだ。

『魔族め。サントハイムを攻めたのは、悪手だったのだと、我々の手で後悔させてやる。我々はなんでも使う。故に最期まで負けぬし、人類を舐めてもらっては困る。いまは机上の空論であったとしても、私の息子が、必ずや実現してみせるーーー』

この老いた軍師の考えは、勿論のことながらクリフトになにも言わずとも伝わっており、前日までに「自分が取り戻す」と涙ながらに懇願し、プライや自分の耳を貸さなかったアリーナを説得し、アリーナ自身が姫巫女のように国民の前面に立ち、戦闘の間、祈ることを約束するのを成功させていた。

ただ、アリーナは危険な戦闘に向かうクリフトの傍に一瞬でも長くいたい一心で、一晩中彼に寄り添い、彼の無事を祈るように彼の手を取って囁き続け、そうしていつしか眠ってしまったのだ。

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