その頃、アリーナはクリフトに折れた剣のことを訊ねていた。
「トルネコさんから、ほんの少しだけお話を伺ったわ。剣が折れてしまったとか」
「姫さま、その件については本当に申し訳なく思っております。あの剣は、曽々祖父が当時の王から賜った剣、それをみすみす折ってしまうなど」
アリーナは不思議そうな顔をした。
「謝ることないわ。普段から折るような戦い方なんてしないじゃない。よほどのことをしたのよ、バルザックは。うん」
「しかし」
「しかしもかかしもないの。こうやって、城が戻ってきて、クリフトも無事。あの剣は、役目をはたしてくれたのだから、曽々祖父さまだってお喜びになるわよ。この際だから、クリフトも強い装備に目を向けてくれたら嬉しいんだけどな」
クリフトはアリーナに向き直った。
「あの剣は、特別なのです」
「どこが?」
「セイブ・ザ・クイーン。あの剣の名前です。曽々祖父が護ったのは、当時の……女王となる方だったのですよ」
「女王は曽祖母さまよ?」
「あの剣には歴史があります。元々の名前は」
ーーーセイブ・ザ・プリンセス。
クリフトが続けた。
「女王となる王女を守り切る者へ贈られた剣なのです。つまり、つまりその……」
「私もだって言いたいの? 縁起が悪いって?」
「はあ、まあ……」
私、護られるばかりじゃないんだから。
と、アリーナは胸を張った。
「その気持ちはとても嬉しいけれど、護られるばかりが私じゃないの。それに……」
アリーナは、元気いっぱいの笑顔を見せた。
「クリフトが私の剣だけじゃなくて、盾だもの。大切なのは物じゃない。クリフト自身が、いまのサントハイムに必要な、セイブ・ザ・プリンセス、のちのち、セイブ・ザ・クイーン! そのうち、その証としての新しい剣を渡す日がくるだろうけれど、それまでよく、覚えておいてね」
背伸びをしたアリーナは、クリフトの額にサントハイムの紋章を指で描き、くるりと背中を向けて、クスクスと笑った。そのアリーナを見て、クリフトはますます不思議な感覚を、アリーナに覚えるのであった。