pickup!

「……敵がいなければ、ですね」
「そうね」
「そうだな」
「水も滴るいい男が、お相手しますよ」
「どこにいるんだ、それは」
「俺だよ。モテ男は黙ってろ!」

相手は、うずしおキング4匹。
ヒャダルコを連発する、地味に痛い相手だ。
しかも4匹で、こちらにはまとめて攻撃する手段がアルディしか持たない。

まずアリーナが先制をとり、相手の懐に入り込んだ。

「でええぇぇい! せいっ!」

アリーナの爪はうずしおキングの渦に飲み込まれ、若干効きが悪そうに見えた……のも束の間。

「たあっ! やあっ! はっ!」

今度は空を舞い、体を捻り、頭へ三段蹴りを叩き込んでいく。古来種独特の青緑色をした体液を流し、それでもケタケタと嗤う、うずしおキングから、アリーナは距離を取った。

「な、なにかブツブツ言ってるよ! クリフト!」

目を閉じ、人差し指を口に当て、同じくブツブツと何事かを唱えていたクリフトが、ふと、パチリと目を開き、黒革手袋を嵌めた左手をうずしおキングたちに向け、呪文を解き放った。

「……マホトーン」

うずしおキングたちの詠唱が止まった。
代わりに、彼らの喉の周りに、くるくると回る赤い紋章が付いている。

元々マホトーンは、神職たちの間で開発された魔法だ。修行中に甘い戯言を言う魔物や人たちの言葉を封じる為だけに、存在してきた。故にシンプルな魔法で、今やすこし修行を積むだけで魔物や魔族でも、簡単に唱えられるものになってしまった。先に唱えられると、後衛職は手も足も出ない。逆に、このように一斉に魔法を唱えてくる相手に対しては、非常に有効なものなのだ。

「……でかした、クリフト」

ライアンが飛び出し、既にアリーナが一撃お見舞いしたうずしおキングを一刀の元に斬り捨てた。

「次は誰だ!」

ライアンが吼えると、うずしおキングは紋章の解けぬ首を押さえながら、少し後退りする。

「みんな俺の後ろに下がれ!」

アルディが印を結んでいる。
マーニャ仕込みの爆発魔法。
彼は普段からふざけているようで、実はそうではない。強い不眠症に悩む自分に必要な魔法、みんなに必要な魔法、戦闘で使う魔法と、彼なりに割り切り、その中でも周りを信用しながら、自分のMP量が枯渇しない程度の魔法を勉強してきた。

マーニャほど、威力が高いわけではない。
しかしここにおいて、致命的なダメージを与えるには十分なのだ。あとは仲間が、なんとかする。

「……イオラ!」

収縮する水末が足元を流れる水とともに、泡末となり、一瞬周りの気圧を変え、次の瞬間。

どごん、と大きな音がして、マホトーンで苦しむ残りのうずしおキングたちに、大きな圧とダメージを与えた。癇癪を起こしたうずしおキングは、精一杯になにかの呪文を唱えようとするが、クリフトが紡いだ印によって唱えることはできない。

アリーナは、癇癪を起こしかけているうずしおキングの元に走り寄り、上中下段の正拳突きと、頭に回し蹴りを入れ、一匹仕留めた。

ライアンもそれに続き、喉を苦しそうに掻き毟る、うずしおキングに駆け寄り、思い切り剣を振り下ろした。

……残るはあと一匹。

クリフトが槍をクルクルと回し、おもむろに喉と脇をすばやく突き刺した。首に描かれた紋章のおかげで、悲鳴の声もろくに出せぬまま、最後のうずしおキングは絶命した。

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