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翌日。
クリフトの義父は、クリフトが家宝の剣を折ったと報告を受け、大きくため息をついた。

「結果、それでバルザックを討伐出来たのだな?」
「申し訳、ありません……」
「クリフトの義父さんさ、コイツ強かったんだよ。一人の犠牲も出さなかったし、マジでクリフトのこと、誇っていいと思う」
「アルディさまたちの、大きなご助力あってのこと。神に感謝せねばなるまい。宝剣を折るなどもってのほか。無茶な戦いであることを、分かっているのか、クリフト」
「はい……」

血は……繋がってないんだよな?
アルディは思った。
しかめ面を隠しもせず、とんとん、と指先で机を叩くその姿。まるでどこかの誰かが、コピーしてきたようで、よほど厳しく育てられたのだろうと、アルディは軽く身震いした。

「……まあ、いい。お前にあの剣を預けたのは、この私だから、此度の責は私にある。王が戻られた際は、私から話をしよう。お前は今後、武具をどうするつもりだ」
「幸い、扱いやすい槍や棒が揃っています。それを暫くは使うつもりです」

義父は軽く両手を組んだ。

「神話程度の話だが」

何処までも水を吸い込む石があり、その石と対になる洞窟の入り口が海の何処かにある。その中に、人間が未だに接したことのない、軽くて何よりも硬い金属で出来た剣が眠っているらしい、と彼は続けた。

「なるほど、不思議なオーパーツじゃねぇの」
「この話は最近になり、真実味を帯びてきている。アルディさまたちが手に入れる、それどうこうより、魔物や魔族の手に移ることの方が、脅威ではありませんか?」
「あっ…。あちゃー。そっか、そうだなー」
「アルディ、今日にでもトルネコさんと相談したい。何処までも水を吸い込む石があるのなら、滝壺……。いや、それなら川にならないな」

バーンスタイン公爵は片眉を上げ、クリフトの言葉にこう続けた。

「満ち引きの激しい海岸なら、話は別」
「あっ、そうか。満ちているときは何処までも水を吸い込むけれど、引いているときは、普通の石と見分けがつかないから、わからない!」
「場所が限られてくる」
「あとでトルネコやブライも入れて相談だな」

アルディとクリフトが頷いていると、クリフトの義父が呟いた。

「お前に何故、今更こんな話をしたか。それくらいは分かるな?」
「その剣を手に入れ、新しいセイブ・ザ・クイーン、否、セイブ・ザ・プリンセスにする為」
「その通り。必ずや、この世界を元通りに人のものとするのだ。……行っていいぞ」

クリフトとアルディが席を外し、大きな屋敷を後にした直後、ブライが隠し戸棚を開けて部屋に入ってきた。

「……もう、よろしいですかな」
「隠れさせるなんてことをしてしまって、すまないな」
「宝剣を折ってしまった。あとの算段は、どうにか、つけねばなりますまい」

それにしても、とブライは嬉しそうだった。

「クリフトは、頑なに剣の銘を語ろうとせんかったが、なるほど。我々に軽率には言いたくないわけですわい。セイブ・ザ・プリンセス。黙して語らず、しかし、愛してやまぬ姫さまの為の剣」
「貴殿も理解してくれたようだな」
「いやはや不器用な、恋ですわ」
「貴殿の情報を、あたかもこちらが手に入れたように使ってしまって悪かった」
「いえいえ、バーンスタイン公爵さまからお伝えいただくほうが、彼らもやる気が出ましょう。そちらの方がいいのです」

ブライが窓の外に目を向けると、若草色のワンピースに身を包んだアリーナが、笑顔でクリフトに駆け寄っていた。

「そんな不思議な剣があるんだー。見たいなぁ」
「手に入れても、使いこなせるかはわかりませんけれどね」
「クリフトなら大丈夫だよ」

アリーナは、ひょこんと足元に咲く小花に向かってしゃがみ込み、大丈夫だもんと言い切った。

「アリーナもわかってると思うけど、剣にも、使い手にぴったりの重心とか硬度とか色々あるんだぜ?」
「私、その剣は大丈夫な気がするの。全然、根拠なんてないけど」

アリーナは二人に向かって振り向き、世界中、行くところが増えたね? と微笑んだ。

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