pickup!

「直せる限界まで、やってみますよ。武器屋と鍛冶屋の腕の見せどころ、腕が鳴ります」

マーニャとミネアがいない夕食時。
トルネコが胸を張った。

「クリフト、あんな細い剣で口から耳まで一気に貫いて、こんな風にへし斬ったからな。無茶しやがる」
「ああ、そういうことなら納得です。この辺りの硬い骨をいくつか、ね」
「そうそう、結構な速さだったぜ」
「食事中にやめませんか…」

普段から深刻な不眠症のアルディでさえも、さすがに夕食時まで熟睡していたらしく、目覚めさっぱり、おなかぺこぺこ、と言わんが顔で、エール片手に、トマトソースがたっぷり掛かったタラのコロッケを頬張った。

「うわぁ……。なにこれ、すげぇうめぇ」
「サントハイムの料理に、ハズレはないわい」
「しかし、いささか豪華すぎませんか、こう……いつもと違って」

トルネコが周りを見渡す。
大きな部屋に通され、大きなテーブルに並べられた豪華な食事。執事やメイドが行き交い、グラスや皿が空になることがない。いつもの旅では宿の食堂か酒場で、荒くれや吟遊詩人たちに混じり、大声でオーダーをし、ようやくありつけた料理や酒に皆で群がっていたのだ。

「今回はバーンスタイン公爵のお気持ちを、素直に受け取っていただきたい。留守を預かるものとして、つかの間戻られた姫さまや、サントハイムの救世主たちを無碍に扱うわけには、いかんだろう?」

ブライは、ニンニクの効いたソパデアホと呼ばれるトマトスープを心底美味しそうに啜り、ワインを飲み、隣に座るアルディのグラスに、エールをなみなみと注ぐ。久しぶりに上機嫌なブライを見て、トルネコは続けた。

「出発はいつになりましょうかねぇ。武具を直し、食糧や水を調達して……。そもそも行き先も、キングレオと限られたわけじゃなさそうですし」

アルディはもぐもぐ、と頬張ったパンを頑張って飲み込んだ。

「マーニャとミネア次第だよ」
「私、マーニャとミネアはついてくると思うの。自分勝手な、予想に過ぎないけれど」
「俺もそう思うよ?」

キョトンとした顔でアルディは、アリーナに向き直り、不安そうな顔をしていたアリーナまで、あっさりと返ってきた答えにキョトンとしたので、アルディはクリフトに、俺は飲むから替わりに答えてやってくれと言い残し、焼きトマトとニンニクをつまみに、エールを飲み始めた。

「マーニャさんとミネアさんが追っていたのは、確かにバルザックそのものなのですが、今回、我々がバルザックと対峙したときは、既にヒトの形ではなく、彼女たちのお父さまが造られた、進化の秘宝を用いたものでした。これは、バルザック自身も戦いの最中に、供述していたことです」

クリフトは続ける。

「進化の秘宝がある限り、ことは治らないでしょう。もちろん彼女たちが単独行動をしても問題はないのですが、アルディや我々のゆくところにこそ、進化の秘宝は今後も用いられていくでしょう。ゆえに、我々と同行するのは間違いないと思われます」
「でもだって、数日かかるって…」
「それに関しては、進化の秘宝が魔物たちの手に渡った経緯を追うか、或いは行き当たりばったりでも、着いていくことでいつかは進化の秘宝に当たると考えるか、の二択だと私は考えていて……」

食事の少なくなった食卓の上に灯る、ろうそくの明かりに照らされながら、クリフトは静かに指を折った。

「マーニャさんとミネアさんのルーツである、モンバーバラ経由のキングレオ城、或いは進化の秘宝が人知れず眠っていた、フレノール南東の洞窟だと思うのです。山と海のルートで分かれてしまうので、トルネコさんは物資の補給面で、待ったがかかってしまうのですが、そこもお二人も仇を取ったばかりなので、致し方ない……という話で、いいか? アルディ」

焼きトマトと焼きチーズをクラッカーの上に乗せ、口を大きく開けていたアルディは、そのままの態勢で「おう」と言い、ぱくりとクラッカーを飲み込むように食べてしまった。

「すまん。この通り腹減ってしまってるわ、サントハイムの料理が美味いわで」
「私、てっきり二人が抜けてしまうのかと思って心配してた」
「それはないない」
「そんな方達ではないと……。早く言えば良かったですね」
「姫さまは、もっとご友人を信頼することじゃな」

トルネコは、アルディの食べていたトマトチーズのクラッカーに手を伸ばした。

「どのみち、武具の更新や調整だけでも数日かかりますし、バーンスタイン公爵さまだけでは、なかなかままならないこともあるのではないでしょうか? そういう要件を済ませているうちに、彼女たちも答えを決め、私も必要な物資を揃えられるかと。……お、おおう、これは…! 美味しいですね!」
「ここにいれば太るぜ、間違いない」
「太りますねえ」

これ以上太って鈍ってしまうと、話になりませんねえと、トルネコは腹を撫でたが、もうひとつの手が、エールの入ったジョッキを手放すことはなかった。

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