pickup!

ーーークリフトの言葉の意味が、自分の意味と違ったとしても、好きで、好きで、大好きで、止まりはしない。だから、私は強くなくてはならない。強くあらねばならない。さらに強く。クリフトが安心して、自分を扱ってくれるように。その為ならば、カラ元気も強がりも厭わない。そうすれば、いつか、クリフトは私自身、個人としての私を見てくれるような気がして。だから、頑張る。頑張れる。強くならなきゃ、胸を張って隣にはクリフトの隣には立てないのだから。だから、見ていてね、クリフト。魂の欠片を持った、唯一の愛する男性。意地悪だし、狡いよ、クリフトは。そんなことをして、また私を恋の沼に突き落とすのだから……。

そんなことされたら、もっともっと好きになるに、決まってる。意地悪。狡いよ、クリフトは。馬鹿。大好き。……私の心はクリフトだけで満員だよ。嗚呼、こんな時にも最高に優しい笑顔を見せて、私を縛り付けていく。でも伝わらなくて苦しい。いっそのこと、こんな甘い記憶を全て消して、他の人を好きになれれば良かった。……でも、無理なことも分かっている。クリフトに出会ってしまったときから、自分だけがずっと片想い。

でも、どんな意味であったとしても、クリフトが自分のことを大切に考えてくれていて、たとえ視点がズレていて、異性ではなくヒトとしてだとしても、自分のことを好きだと言ってくれたことには違いない。クリフトが嘘をつかないことも、自分はよく知っている。だから、いま、この瞬間。たまらなく幸せ。

クリフトは苦笑しながらアリーナから身体を離し、彼女の小さな上半身にストールのように掛けた彼のマフラーを、今度はしっかりと巻き直し「こんな薄着では風邪を引いてしまいますよ、川風は冷たいのだから」と言い、そして「宿に……戻りましょうか」と声をかけ、その言葉に彼女も無言で頷いた。

宿への直線距離は短くとも、いかだに乗らなければ辿り着けない。クリフトは顔を赤らめたままのアリーナの手を引き、いかだに乗せ、船頭に宿へ向かうように頼んだ。

「……星が、よく見えるね。クリフト」
「そうですね。月が、綺麗ですね」

クリフトは、自分がアリーナをどう思っているのか、どう見て、結局どうありたいのか。その心には固く鍵をかけている。彼自身、それを直視してしまうと、本来聖職者である自分、国の政を進めていく為に養父に育てられた自分が、粉々に瓦解してしまうであることが分かっていたから。しかし、アリーナにはもしかしたらそれを望まれているかもしれない、ということもうっすらと感じてはいた。いつかは向き合わねばならない自分に蓋をし続けることに慣れてしまい、ただ、怖い。恐ろしい。

護るべき存在には、いつかは向き合わねばならないのにも関わらず、自分で自分に屁理屈を並べて、自分を誤魔化すことに嫌悪感まで抱いている。それでも、そうであったとしても、目の前にいる、美しく可憐に育った幼馴染のことは、どうしても放置出来ない自分もいるのだ。

アリーナはクリフトの袖をきゅっと摘むように握りしめていた。彼も、そのことは知っていたが、あえて黙っていた。彼女は夜空を仰ぎながら、彼だけに聞こえるように呟いた。

「お月さま、本当にきれいね」

クリフトは、アリーナの顔をひょいと覗き込んだ。アリーナの片目には自分が映り、そして、もう片方の眼には、銀色に輝く月が映っていた。

「ええ、とても」

いまの二人には、そのように寄り添うことが精いっぱいだった。

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