それからまた数ヶ月後。
一行は旅の進捗具合を、クリフトの義父であるバーンスタイン公爵に報告をしに、サランの街までルーラで飛んできていた。
「クリフトー、すっごく美味しいパンケーキを出すカフェがあるんですって。クリフト、パンケーキ好きでしょ? アルディも行こう? ね?」
春らしく淡いピンク色のワンピースに身を包んだアリーナが、クリフトの袖をツンツンと引っ張ってねだった。
「パンケーキ、ですか?」
「……あ、そういやクリフト。あの店教えてやれば?」
「ああ、あの店のパンケーキなら姫さまの舌に合うかも知れない。姫さま、美味しいパンケーキを出してくれる店があるのですが、ちゃんとした表メニューではなく、裏メニューなのですよ。隠れた名店だと思いますので、そこに一緒にどうですか?」
アリーナはクリフトと一緒であることが、ただ嬉しいと感じるので、ただ、こくこくと頷き、そこへ行きましょう? と嬉しそうに言った。
果たして、三人がクリフト馴染みの店にたどり着いたとき、アリーナが言った。
「このお店よ? さっき私が言った美味しいパンケーキのお店」
どうしてこうなったのかは、簡単な話だ。
件のクリフトファンクラブの女性たちによって、クリフトの好物として認識された、このカフェのパンケーキが、あまりにも注文されるようになった。また、会合の度にホットココアとパンケーキのセットで頼まれるようになり、裏メニューとは言えなくなったのだった。
いまや、クリフトのファンと名乗るなら知っていて当然の情報となってしまったパンケーキは、かくして、クリフトの知らない間に表メニューとして君臨することになった。
「クリフトの言っていたお店って、ここのお店のパンケーキなの? ふふ、ふしぎね? 私、パンケーキとココアにする!」
アリーナは、悪戯っ子のように笑った。