pickup!

アリーナが部屋で支度をしていると、ドアがノックされ、マーニャとミネアが入ってきた。

「アリーナ、一緒に買い物に行かない?」
「えっ、いいの?」
「もちろんよ。アリーナがクリフトさんのご実家にいる、執事さんやメイドさんたちに、旅の一揃をお願いするのだったら、私たちは遠慮しなきゃいけないけれど……」

アリーナは、ふるふると首を横に振り、笑顔で彼女たちに返した。

「ううん、誘ってくれてありがとう。誰かに用意してもらうのは、本当は楽だったんだって、そのことは分かったんだけど、私は自分で選んだものを身につけたいなって、ずっと思ってたの。一緒に見てくれるなら、嬉しい」
「そぉ?」
「うん。お忍びで行くことになるから、いつもより地味な普段着じゃないと……」

下着姿で、ごそごそと荷物をひっくり返すアリーナを見て、マーニャが言った。

「アリーナ……。ちょっと、胸大きくなった?」
「へ? そ、そう、かな…」

アリーナが胸元を見下ろすと、そこには城から飛び出す前にこしらえさせた下着があり、確かに下着から胸がはみ出そうだった。

「ダメよ、そんな下着つけてちゃ」
「胸が苦しそうだわ」
「でも、戦っているときは、スポーツタイプの物を着けているし……」
「はっきり言いましょう」

こほん、とマーニャは咳払いをし、アリーナの胸元を指差した。

「下品」
「げ……下品」
「姉さん、普段着はおろか、下着も自分で買ったことのないような、王女さまに、そんなに言うことないじゃない」
「だからこそ、私たちが面倒見なきゃ。さぁ、アリーナ。早く着替えて」
「うん、地味な服……。地味な服」

アリーナが地味な普段着として、荷物から取り出したのは、胸元に細かな小花の刺繍が施された、真っ白な絹のシャツに、ファーストカシミアの手触りも心地良い、淡いピンク色のカーディガン。そして、膝下までフンワリと覆う、紺色のベロアのフレアスカートに、アリーナの白い肌が透けて見える絹のストッキング。そこにエナメルの黒靴を併せ、アリーナは髪を結い、フレアスカートのベロア生地を主にした髪飾りを着け、少し得意げな笑顔でポーズをとって見せた。

「これで…どうかな」
「……う、うん。地味。地味、かなー?」
「がんばった。アリーナ、がんばった」
「うん、がんばったよ」

いまある手持ちの服で、ひとり一生懸命に、地味とはなんぞやを考えて服を選んだ。
そんなアリーナのことを、たとえ貧しいジプシー出身であっても、二人は悪く思えるはずもないのだ。庶民の暮らしのことは何も知らない、ひな鳥同然。二人の”姉たち”は新しく出来た”妹”に庶民の暮らしを教えなくてはならない、と内心奮起した。

「では、最初は下着を買いに行きましょう」
「さっき、宿で働いている女の子に、この街でいいところを聞いておいたんだ。お店の場所と名前はバッチリ」
「マーニャとミネアのその服は、普段着?」
「そうよ」

マーニャは、ざっくりと茶色の大判ストールを羽織ったシャツに、赤みの強いコルテスカートに、刺繍の入ったサンダル。ミネアは緑色の刺繍を施した麻のボヘミアンワンピースに、シンプルな革のサンダルをざっくりと着こなしていた。

「街でも仕事着は着ていられないでしょ、仕事思い出すの嫌だし」
「うん、大体はこんな感じよ?」
「そっかー、普段着に流行りとかあるの?」
「今度、ファッション雑誌見せてあげる。アリーナに合いそうな服も、載っているわよ」
「雑誌……。読んだことない。読みたい」
「うん、約束ね?」

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