pickup!

「悪かった、取り乱した」
「しっかりしてくれよ、本当に」

まさかクリフトその人のことを延々語り合っていたとは言えない彼女たちは、耳をダンボのように大きくしながら、クリフトと、その親友アルディの話を聞き入るようになっていた。

「トルネコが言うには、一度海路でレイクナバを経由して目的地に入るって。レイクナバって北国じゃん? だから、今日はマーニャとミネアが防寒着買いに行ってる。俺らの分もチェックしとかないとな」
「私は実家に古い防寒着があるから、それで良いが……。アルディも使うか? 服だけは色々余計にある」
「お、あとで見せて。今日、アリーナは?」
「老子の分と合わせて、普段着の採寸をしているはずだ。出立は五日後だから、三着程度は間に合うだろう。……北国か」
「蜂蜜酒が美味いらしいけどな。……船の甲板も北国仕様じゃないと、敵の触手攻撃とかもたねーよ」
「それは今日、トルネコさんがチェックしてるはずだ。攻撃に氷が混じるから、どうしても傷みやすいし、なにより叩きつけが怖い」
「そうなんだよなー……。あ、ここのコーヒー美味いな」

クリフトは、少し微笑むように笑って、そうだろ? と返した。

「いまから来る、いつもの、と併せるともっと美味い」
「そうだ、さっきから気になってた。いつもの、ってなんだよ」
「ここのマスターの裏メニューだよ。頼まないと出てこない。ほらきた」

アルディとクリフトの目の前に運ばれてきたものは、立派なホットケーキが二枚。上にはバニラアイスが乗っており、見た目からして可愛らしいものだった。

「パンケーキじゃねーか」
「美味しいから」

そう言って、クリフトは嬉しそうにチョコソースをかけ、食べ始め、にこにこするので、アルディもそれに倣って一口食べた。

「お、美味いな」
「小さい頃、義父が私につけた礼儀作法の先生が厳しくて、授業が終わればこの店の前のベンチで落ち込んでいたんだ。そこにマスターが招いてくれて、これを振舞ってくれた。それから、機会があればここのパンケーキを頂いている」

そう言うと、またクリフトはパンケーキを口に運んだ。

「アリーナは知ってるの?」
「何故? 知らないと思うな……。大体、一人で甘いもの食べているなんて、見られたくないじゃないか」
「今度教えてやれよ」
「……考えとくよ」

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